潜水士免許について

以下に、潜水士免許制度および2018年の特例措置、さらに沖縄における外国資本参入やサンゴ礁破壊の懸念点を整理した資料を作成しました。

潜水士免許の概要

目的

  • 潜水士免許は「労働安全衛生法」に基づく国家資格。
  • 水中工事や救助活動など、安全確保が重要な“業務としての潜水作業”を行う者が取得義務を負う。
  • 労災保険の適用範囲として「業務中の潜水」を明確化する役割がある。

取得条件

  • 学科試験(安全衛生管理・物理・生理学など)に合格し、申請を行えば取得可能。
  • 実技試験は無し で、現実的に潜水できなくても免許取得が可能。(出典:厚生労働省「潜水士免許について」)

レジャーダイビングとの乖離

  • 試験内容は高気圧下の潜水工事や作業安全に関する理論が中心で、レジャーダイバーやインストラクターで日常的に用いる技術・知識とは大きく異なる。
  • ダイビングショップ等で「講習・ガイド」を行う行為は、直接的な工事・救助作業と区別が曖昧なため、法的扱いが複雑化している。

ダイビングインストラクターと潜水士免許の関係

ダイビングインストラクターの業務範囲

  • PADIやNAUIなどの指導団体資格を持ち、レジャーダイバーの講習や水中ガイドを行う。
  • 潜水作業(工事・救助)と異なり、あくまで「レジャーガイド」。
  • しかし、日本では「 有償で潜水を伴う業務 」として捉えられる場合があり、労働基準監督署から潜水士免許取得が求められる事例が多い。

潜水士免許が必要とされる理由(日本人インストラクター)

  • ダイビングショップやスクールの「従業員」として生徒や客を潜水させる行為が、 労働安全衛生法上の業務潜水 とみなされる可能性が高い。
  • そのため、日本人インストラクターは潜水士免許を取得しているケースが一般的。

2018年の特例措置(高気圧作業安全衛生規則の改正)

特例措置の概要

  • 2018年の「高気圧作業安全衛生規則」の改正により、 外国でPADIダイブマスター以上の資格を有する者 は潜水士免許の取得義務を免除できるとの運用が認められた。
  • 外国人インストラクターが日本国内でのダイビングガイドや講習をする場合でも、 潜水士免許を追加で取得しなくてよい ケースが生じる。

不公平感の指摘

  • 日本人インストラクターが通常の手続きで潜水士免許を取得しなければならない一方、外国人インストラクターは上記特例で容易に業務を開始できる状況。
  • 業務としての潜水が本来必要なのに、 外国人には実質的に免許不要 という差が「不公平ではないか」と国内業界団体や地元インストラクターから指摘されている。

参入障壁の低減と影響

  • 外国人インストラクター・海外資本のダイビングショップにとって、日本の免許制度が“ハードル”とならなくなり、国内市場への参入が容易に。
  • その結果、 日本人インストラクターの雇用機会が減少 、または待遇が悪化する可能性が懸念されている。

参考資料 : 厚生労働省「高気圧作業安全衛生規則改正に関する告示(2018年)」など

沖縄での問題点とサンゴ礁破壊への懸念

沖縄の現状

  • 国内外を問わず多くのダイバーが集まる観光地であり、ダイビングスクールやショップの数が多い。
  • 外国人観光客のインバウンド需要が年々増加(コロナ禍前は年間300万人規模)し、今後も拡大が見込まれる。(出典:JNTO・沖縄県観光統計)

外国資本の参入による懸念

  • 沖縄特有の潮流、海底地形、サンゴ保護ルールへの理解不足 を持つインストラクターが増えるリスク。
  • 事故の多発:地形を把握せずにガイドしたり、流れの速いポイントで適切な安全管理ができないなどの事例が懸念される。
  • サンゴ礁の破壊:誤ったアンカリングやダイバーの不注意(サンゴに接触・踏みつけ)が増え、貴重なサンゴ礁への物理的ダメージが深刻化する恐れ。
    • 沖縄県の「サンゴ礁保全行動計画」でも、観光客による直接的ダメージの増加が大きな課題として挙げられている。(出典:沖縄県環境部資料)

参入障壁の低さがもたらす影響

競争激化

  • 新規に参入する外国資本が価格を大幅に下げ、質より量を優先したダイビングサービスを提供する恐れ。
  • 結果として、環境配慮や安全対策が不足しがちな事業者が増える可能性。

オーバーツーリズムによる資源劣化

  • 観光地におけるキャパシティを超えたダイビングツアーや船の集中が、 サンゴ礁破壊や海洋汚染 を加速させる。
  • 環境省の調査でも沖縄のサンゴ被度は1990年代と比較し大幅に減少しており、観光利用の増加も一因。(出典:環境省「サンゴ礁生態系保全推進調査報告」)

地元インストラクター・事業者の圧迫

  • 免許取得や地元ルール遵守を真面目に行ってきた日本人事業者が、制度の抜け道を活用する外国資本との競争にさらされる。
  • 沖縄の海域保護や観光の質向上を長年取り組んできた地元勢が、不利な状況になる可能性。

    改善に向けた提案

    外資・外国人インストラクター向けの義務研修制度

    • 沖縄でダイビング事業を行う際、「沖縄海域特有の潮流やサンゴ礁保全ルール」を学ぶ講習を自治体や関係団体が義務化する。
    • 潜水士免許そのものが不要となる特例措置に対し、最低限のローカル知識と環境保護意識を身につけさせる仕組みを構築。

    サンゴ礁保護に関する条例の罰則強化

    • 現状の自主ルールではなく、 特定海域のアンカー禁止、サンゴ接触禁止 などを条例化し、違反者には罰金・営業停止などの制裁を科す。
    • 監視体制を整備し、 法的拘束力 を持って取締りを実施する。

    業務潜水の明確な定義と適用範囲の見直し

    • 労働安全衛生法や関連規則で「レジャーガイドも実質的に業務潜水に当たる」条件を明確化し、日本人・外国人の差を解消。
    • ダイビングインストラクターには、潜水士免許に代わる専門的な資格(安全・環境保全含む)の導入を検討し、業界全体の底上げを図る。

    キャパシティマネジメントと来訪者コントロール

    • 人気ダイビングポイントごとに1日の最大船舶数やダイバー人数を制限し、オーバーツーリズムを未然に防止。
    • 海外リゾート(パラオ、モルディブ等)の成功事例を参考に、環境税やダイバー登録制などを導入。

    データの一元化と公開

    • 事故数やサンゴ礁の健康状態、外国人事業者数などの情報を、行政が一元管理し定期的に公表。
    • 行政・業界・地域住民が エビデンスベース で協議できる体制を構築し、早期対策を可能にする。
      潜水士免許は本来、「工事・救助等の業務潜水」における安全確保を目的とした資格で、レジャーダイビングのインストラクター業務とは内容が乖離している。
      2018年の規則改正により、外国人インストラクターは潜水士免許不要となる特例が認められ、日本人との間に不公平感が生じている。
      沖縄ではオーバーツーリズムの影響や外資参入の増加により、海洋事故とサンゴ礁破壊の懸念がますます高まっている。
      これらの課題を解決するためには、(1)外資・外国人向けのローカル知識研修義務化、(2)罰則強化によるサンゴ礁保護、(3)業務潜水の定義見直しによる公平性確保などの具体策が求められる。

        【主な参考・出典】

        厚生労働省「潜水士免許について」
        https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
        厚生労働省「高気圧作業安全衛生規則改正に関する告示(2018年)」
        厚生労働省公表資料 (官報掲載分)
        沖縄県「サンゴ礁保全行動計画」
        https://www.pref.okinawa.lg.jp/ (環境部 自然保護課資料など)
        環境省「サンゴ礁生態系保全推進調査報告」
        https ://www.env.go.jp/
        日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数統計」
        https ://www.jnto.go.jp /jpn /statistics/
        沖縄県「沖縄観光統計」
        https ://www.pref.okinawa.lg.jp /site/bunka-sports/kanko/
        海外リゾート地のキャパシティマネジメント事例 :パラオ政府観光局、モルディブ政府観光局資料など

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