AMP RESEARCH / 調査資料

海から見た観光
── 観光政策と観光統計のなかで、海はどう扱われているか

調査資料 v1.1 公開 2026-08-28 一般社団法人マリンレジャー振興協会
はじめに

この資料が申し上げたいこと

日本の観光政策には、陸の自然を安全に楽しんでいただくための型があります。令和8年版観光白書によれば、国立公園では、利用者の安全確保に資する防災・減災対策が実施され、自然環境の保全にかかる費用を、利用者に一部ご負担いただく仕組みの実証実験まで始まっています。

同じ白書の中に、海について同じものは見当たりませんでした。

数えられていないから、ではありません。民間の余暇統計は、ダイビングやサーフィンをゴルフやスキーと同じ粒度で数えています。沖縄県は、海に入った方の割合を毎年測っています。ただ、それらの数字が、お客様を受け入れる事業者の数や、安全にかかる費用へつながる形は、この資料が調べた範囲では確認できませんでした。

陸にある型を、海にも置いていただけないでしょうか。

新しい発明は要りません。国立公園には型があります。スキーには統計の枠があります。民間統計は、すでに海を分けて数えています。足りないのは、それらを海に当てはめることだけです。

そして、その空白を埋める数字——事故の実数、救急資材の配備状況、事業者の実態——を、当協会は現場から集めています。制度を設計される方々に、お使いいただくためです。

以下は、この主張の根拠です。どの機関の不備も指摘しておりません。陸にある型と、海にまだ無いことを、並べて記録したものです。

1

この資料は何か

国・県・関係機関が毎年公表している観光関連の報告書において、海、マリンレジャー、水辺の安全、サンゴがどのように扱われているかを読み、記録したものです。

一般社団法人マリンレジャー振興協会(AMP)は、ダイビング・シュノーケリングをはじめとするマリンレジャーの安全と、海洋環境の保全について調査研究を行っています。日々の業務で扱っているのは、海の事故、事業者の実態、酸素の配備、現場の運用です。それらを扱う立場から、国の観光政策が海をどう位置づけているのかを確かめたいと考えました。

この資料は、どこかの機関を批判するために作ったものではありません。書かれていることと、書かれていないことを、そのまま記録することを目的としています。

2

調べ方と、その限界

最初に、この資料の限界を申し上げます。

読んだもの

資料範囲
観光庁「令和7年度観光の状況 令和8年度観光施策」(令和8年版観光白書)概要版18頁・目次4頁・第I部81頁・第II部33頁・第III部35頁
同上の令和6年版・令和7年版(経年比較用)3年分あわせて12のPDF・計454頁
観光庁「インバウンド消費動向調査」「旅行・観光消費動向調査」調査票(設問と選択肢そのもの)
沖縄県「令和6年度観光統計実態調査報告書」報告書3分冊・統計データ集(全36シート)
OECD『OECD Tourism Trends and Policies 2026』328頁・約14万語
観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」2023年版第1表〜第8表・参考表
総務省「日本標準産業分類」令和5年改定・平成25年改定の該当細分類
OCVB「おきなわ観光地域カルテ」/日本政府観光局(JNTO)の調査・統計外国人の活動データの有無
日本生産性本部『レジャー白書2025』/日本交通公社『旅行年報2025』民間・研究側での海のアクティビティの扱い

文字が読めない資料があります

観光庁の白書と調査票のPDFは、通常のテキスト抽出では日本語が取り出せません。フォントに文字の対応表が含まれていないためです。実際、ある調査票からは6バイトしか取り出せませんでした。このことに気づかずに語句を検索すると、すべての語が「0件」になります。「書かれていないこと」を所見として扱う資料でこの誤りを犯せば、結論そのものが壊れます。

そのため、全頁を画像化して文字認識(OCR)にかけ、語句の出現件数を数えたうえで、該当箇所は本文を読んで文脈を確認しました。さらに白書については、別の担当が、別の文字認識エンジンを用いて、全頁を2倍の解像度で再度読み取り、目次・安全に関する節・海に関する節・脚注・図表の該当頁については画像そのものを目視で確認しています。

それでも、ここでの「0件」は、二つの文字認識と該当頁の目視で確認できた範囲での0件です。「存在しないこと」の証明ではありません。

読んでいないもの。この資料が読んだのは上の8点です。観光政策は白書のほかにも基本計画や個別事業があり、水辺の安全は海上保安庁、警察、国土交通省、スポーツ庁、環境省などの所管にもまたがります。「国の政策に無い」とは書きません。「この白書では確認できなかった」と書きます。宿泊旅行統計調査、共通基準による観光入込客統計は、まだ読んでいません。

表記について 本資料では「サンゴ」をカタカナで表記します。学術分野で一般に用いられる表記であり、漢字の「珊瑚」は宝石を指す語として使われるためです。

3

白書は、海をどう書いているか

産業として

令和8年版観光白書がいう「観光関連産業」は、宿泊業と旅行業を指します。第I部のテーマ章は「『働いてよし』の観光産業の実現に向けて〜宿泊業の人材確保と生産性の向上〜」で、一章がまるごと宿泊業に充てられています。

一方、この白書の中に、マリンレジャーの事業者を産業として把握する記述、統計、分類は、確認できませんでした。「マリンスポーツ」「事業者団体」「遊漁」は、概要版・第I部・第II部・第III部のいずれにもありません。

ただし、これは「国が把握していない」という意味ではありません。次の節で見るとおり、産業分類はあります。

マリンレジャーが登場するのは、次の三つの文脈です。

  • 体験の機会として ── 「海の駅」を活用したイベントやクルージング等の体験機会の提供、全国一斉の「海の駅フェスタ」
  • 管理の対象として ── 港湾・河川・漁港の三水域におけるプレジャーボートの適正な管理、放置艇対策
  • 情報発信として ── ポータルサイト「海ココ」「C to Seaプロジェクト」による海事観光の発信

三つとも、事業者を主語にしていません。雇用も、生産性も、安全を確保する担い手としても書かれていません。

なお、「マリンレジャーを活用した地域観光の振興等」という項目名は、白書に実在します(第II部 印刷p.106–107、第III部 印刷p.136)。ただしその中身は、放置艇対策と「海の駅」のイベントです。

では、統計の上ではどうか

白書に書かれていないことと、国が把握していないことは、別です。そこで産業分類を調べました。

分類は、あります。ただし、粒度がそろっていません。
事業日本標準産業分類(令和5年改定)
ゴルフ場中分類80 娯楽業 → 小分類804 スポーツ施設提供業 → 細分類8043 ゴルフ場
遊漁船業中分類80 娯楽業 → 小分類809 その他の娯楽業 → 細分類8093 遊漁船業
ダイビングサービス業中分類80 娯楽業 → 小分類809 その他の娯楽業 → 細分類8099「他に分類されない娯楽業」の事例
ダイビングスクール細分類8246 教養・技能教授業(8099の「不適合事例」として明記)

釣り船には、独立した細分類があります。潜るサービスには、ありません。「他に分類されない娯楽業」という枠の中に、釣堀業と並んで名前が挙がっているだけです。

そして——同じ「ダイビング」でも、サービスは娯楽業、スクールは教育へ分かれます。現場では、講習もガイドも器材レンタルも一つの事業者が担っていることが珍しくありません。その事業者は、統計の上では複数の分類に分かれうるということです。

経済規模と雇用は、取り出せません

国が観光の経済効果と雇用を推計する枠組みに、旅行・観光サテライト勘定(TSA)があります。国際基準に基づくもので、観光庁が公表しています。

2023年版のTSAで、これらの事業は「スポーツ・娯楽業」に集約されます。同勘定の雇用の表には、こうあります。

スポーツ・娯楽業 就業者 79万人/雇用者 73万人

この中に、海の担い手は含まれています。しかし、何人かは分かりません。ゴルフ場も、遊園地も、釣り船も、ダイビングサービスも、同じ行です。

海の担い手は、数えられていないのではありません。取り出せない粒度で数えられています。

⚠ この79万人はスポーツ・娯楽業全体の人数であり、観光に関わる比率を掛けたものでもありません。マリンレジャー従事者数として使うことはできません。

安全として

「水難」「溺」「海難」「ライフセービング」「監視員」「遊泳」「海上保安」「水上安全」——これらの語は、全巻で確認できませんでした。

「旅行者の安全の確保等」という節で扱われているのは、貸切バス、旅客船、道路交通、宿泊施設の防火、感染症、外国人旅行者の急な病気やけがへの対応です。

海に関わる安全として、まとまった記述があるのは旅客船です。2022年の知床遊覧船事故を受けてとりまとめられた「旅客船の総合的な安全・安心対策」を踏まえ、海上運送法等が改正され、船員の資質向上、監査の強化、救命いかだの搭載義務化などが行われた、と記されています。

重大な事故が制度を動かした例は、たしかにあります。その一方で、ダイビング、シュノーケリング、遊泳中の事故は、白書の安全に関する記述に一度も現れません。

二つの空白は、併存している

ここで注意深くありたいのは、この二つを因果で結ばないことです。

「産業として扱われていないから、安全の枠がない」と書きたくなります。しかし、それを裏づける資料はありません。そして後述するとおり、マリンレジャーを産業として扱っている国々でも、遊ぶ側の安全は同じように扱われていません。産業として位置づければ安全が付いてくる、という関係ではないのです。

事実として言えるのは、二つの空白が併存している、ということまでです。

この空白は、今年だけのものではありません

「たまたま今年の白書がそうだった」のかもしれません。それを確かめるため、令和6年版・令和7年版・令和8年版の3年分(12のPDF・計454ページ)を、同じ語句の辞書と同じ集計規則で比べました。

令和6年版令和7年版令和8年版
水難・溺・海難・ライフセービング・監視員・遊泳・海上保安・水上安全(8語)すべて0すべて0すべて0
ダイビング・シュノーケリング・スキューバ・マリンスポーツ・事業者団体・遊漁(6語)すべて0すべて0すべて0
マリンレジャー444
海事観光966
海水浴222
サンゴ001
放置艇002
国立公園878462
3年とも、同じ語が、同じように見当たりませんでした。

ただし、「昔から無い」とも「減った」とも申し上げません

ここは慎重でありたいところです。

「昔から無い」とは言えません。確かめたのは3年分だけです。それ以前がどうだったかは、調べていません。

「海に関する記述が減った」とも言えません。差の向きが一つではないからです。令和6年版には、海事観光のコンテンツづくりと受入環境の整備を行う民間事業者への支援が書かれています。一方、令和8年版には放置艇の削減と、サンゴへの言及が加わっています。続いているもの、無くなったもの、増えたもの、別の部へ移ったものが混ざっています。

国立公園の87→84→62という数字も、政策が薄くなった証拠ではありません。特集の構成が年ごとに変わることや、同じ段落の中で同じ語が繰り返されることを含んだ、単純な出現回数だからです。

この資料が申し上げられるのは、「少なくとも近年の3年間、同じ空白が続いている」までです。

4

同じ白書の中で、陸と海を並べる

この資料が最も申し上げたいのは、ここです。

令和8年版観光白書には、自然を観光として扱う型が、すでにあります。国立公園です。

陸(国立公園)
施策項目マリンレジャー節(放置艇・イベント・情報発信)独立した項目。第II部36件・第III部26
利用者の安全確認できず「利用者の安全確保に資する防災・減災対策を実施した」
保全にかかる
費用の負担
確認できず「自然環境保全コストを一部利用者負担とする仕組みの導入に向けた実証実験等を行った」
自然環境への言及サンゴ=全巻で1件(列挙の一項目)エコツーリズム=第II部5件・第III部8
概要版18頁「海洋」「マリン」「海水浴」「サンゴ」「水難」=いずれも0国立公園1件・エコツーリズム1

保全費用の実証実験については、白書はこう書いています——地域協議会の構成メンバー、自然環境に知見を有する研究者、サービス提供にノウハウを有する民間事業者等の多様な主体と連携して実施した、と。

つまり、国の観光政策に「利用者の安全」や「保全の財源」を扱う枠が無いわけではありません。国立公園にはあります。
海のマリンレジャーに、同等のものが構造化されていない。

章・節の見出しに「海」の字は一つもありません(目次全4頁を確認)。18頁の概要版にも、海に関する語は見当たりません。第I部「観光の動向」——つまり現状をどう認識しているかを書く部分——には、海の記述が事実上ありません。海が現れるのは、第II部・第III部の施策編だけです。

補足として、白書が「海洋レジャー」を定義しているのは脚注一か所のみで、その脚注が置かれているのはALPS処理水の海洋放出に伴う風評対策の文脈です(第II部 印刷p.90、脚注12)。

5

他の国は、どうしているか

経済協力開発機構(OECD)が2026年7月に公表した『OECD Tourism Trends and Policies 2026』(328頁)を読みました。各国政府が自国の観光政策を報告した章が収められています。

マリンレジャーを産業として位置づけている国は、あります。

国・地域記載されている取組
ドイツ連邦経済省に「海洋経済・観光担当の連邦政府調整官」を置き、この職が連邦政府内の観光政策を調整する責任者となっている
イタリア国家海洋観光戦略開発計画を策定中。振興、インフラの必要性、規制の枠組みを対象としている
デンマーク国の観光開発機関三つのうち一つが「沿岸・自然観光」。国の観光局と共同で、全国の観光データ基盤 VisitData を構築している
ベルギー
(フランドル)
ブルーエコノミー体験センターを新設。「沿岸のビジョンは観光によって形作られている」と記載
エジプト観光分野の雇用者数に、ヨットおよび海洋活動に従事する人を含めて数えている
コロンビア河川および海洋に88の観光用桟橋を建設・設置中。目的は「安全な着桟、乗船、下船を確保するため」と記載

※上表は、OECDの報告書に記載された各国政府の報告を、当協会が日本語に訳して要約したものです。OECDによる翻訳ではありません。原文と訳文に相違がある場合は、原文のみが有効です。(OECDが定める表示:In the event of any discrepancy between the original work and the translation, only the text of the original work should be considered valid.)

マリンレジャーを観光政策の対象として構造化することは、制度として可能です。特にデンマークの取組は、「海に入る人を、誰が、どう数えるか」という問いに対する一つの答えです。

ただし、これらの取組がどれだけの効果を上げたかは、この報告書には書かれていません。導入後の姿を語るには、各国の一次資料に当たる必要があります。

6

ただし、「遊ぶ側の安全」は、そこにもない

同じ報告書を、安全の側から読み直しました。328頁、約14万語です。

drowning(溺れること)0water safety(水辺の安全)0
lifeguard / lifesaving0swimming(遊泳)0
snorkelling / surfing0water sports / boating0
diving(潜水)1cruise(クルーズ)29

唯一の diving 1件は、気候変動によって失われうる観光資源の例として、雪を使った活動と並べて挙げられているだけです。産業としてでも、安全の対象としてでもありません。

safety(安全)は65件ありますが、その中身は治安や災害に対する旅行者の安心感、渡航情報、労働安全衛生、リスク管理です。

OECDの報告書における「海の安全」も、運送としての海でした。
日本の白書が旅客船だけを扱っているのと、同じ構造です。

「遊ぶ側の安全」を観光政策の枠に入れていないのは、日本だけではありません。観光政策という分野そのものに、この枠がまだ用意されていないように見えます。

なお、これは「他の国に水辺の安全対策が無い」という意味ではありません。観光政策の報告書に載らないだけで、海事や保健の所管に置かれている可能性があります。各国の章は、各国政府の自己申告でもあります。

7

数える、ということ

安全について何かを言うには、分母が要ります。何人が海に入って、何件起きたのか。分母がなければ、多いのか少ないのかを誰も言えません。

白書には、分母がない

令和8年版観光白書には、海のアクティビティの参加者数、事業者数、事故件数に相当する数値を確認できませんでした。主要な数値——延べ旅行者数、延べ宿泊者数、旅行消費額——は、地方ブロック別(沖縄は一つのブロック)までの粒度で示されます。定義の書き方そのものは丁寧です。延べと実数、速報値、調査変更に伴う比較上の注意まで記されています。書き方が粗いのではなく、対象そのものが置かれていません。

しかし、沖縄県は数えていました

沖縄県「令和6年度観光統計実態調査報告書」 本章に2件(もう1件は下記「一枚岩ではありません」)

沖縄県「令和6年度観光統計実態調査報告書」は、県外から訪れた方が沖縄で何をしたかを、四半期ごとに調べています。令和6年度の結果は次のとおりです(複数回答)。

活動年度計7〜9月1〜3月
観光地めぐり71.6%71.0%76.9%
沖縄料理を楽しむ49.2%51.3%49.8%
海水浴・マリンレジャー31.3%57.1%9.3%
ショッピング28.0%
ダイビング6.1%8.6%2.5%
ゴルフ1.2%

海水浴・マリンレジャーは、観光地めぐり、沖縄料理に次ぐ三番目の活動です。夏には6割近くに達し、冬には1割を切ります。八重山圏域では年度計で41.6%、夏には66.2%に上ります。

海に入る人が何人いるかは、測れないのではありません。沖縄県は毎年、測っています。

ただし、この調査には範囲があります。調査の対象は「航空機(直行便)を利用して県外へ出域する日本人客」です。外国人のお客様は、活動の調査対象に含まれていません。統計データ集の全36シートを調べましたが、「外国人」「国籍」「インバウンド」「訪日」という語は一つもありませんでした。

令和6年度の入域観光客数995.27万人のうち、県外客(日本人)は766.12万人でした。残るおよそ229万人の外国人のお客様は、何人が海に入ったのでしょうか。

公表されている数値をそのまま記載したものです。再計算・推計は行っておりません。調査の対象範囲(航空機直行便利用の県外日本人客)も、あわせて本文に明記しています。
出典表記(本稿での掲載形):(出典)沖縄県「令和6年度観光統計実態調査報告書」

国は測っている。ただし、分けて数えていない

白書に書かれていないなら、その元になる統計にはあるのではないか——そう考えて、観光庁の調査票そのものを読みました。

インバウンド消費動向調査には、「今回の日本滞在中には何をしましたか」という設問があり、21の選択肢が並んでいます。その中に、こうあります。

その他スポーツ(ゴルフ・マリンスポーツ等)

マリンスポーツは、独立した選択肢ではありません。ゴルフと同じ枠に入っています。つまり、この数値からマリンスポーツをした方だけを取り出すことはできません。

一方、同じ設問の一つ上には、こうあります。

スキー・スノーボード

雪には、独立した選択肢があります。

公表されている集計表を見ると、2025年の選択率はこうなっています。

全目的観光・レジャー目的
スキー・スノーボード2.88%2.62%
その他スポーツ(ゴルフ等)1.90%1.42%

日本人を対象とする旅行・観光消費動向調査には、そもそも旅行先で何をしたかを聞く設問がありませんでした。旅行の分類は「観光・レクリエーション」「帰省等」「出張・業務」の三つだけです。

公表表からは、「マリンスポーツ」の語が消えます

ここで、二つの表記を並べてみてください。

表記
調査票
回答者が見るもの
その他スポーツ(ゴルフ・マリンスポーツ等)
公表集計表
私たちが見るもの
その他スポーツ(ゴルフ等

公表される表には、「マリンスポーツ」という語がありません。実際、集計表のファイル全体を調べても、「マリン」を含む語は一つも見つかりませんでした。

この1.90%という数字に海に入った人が含まれていることは、公表表を読んだだけでは分かりません。
海のアクティビティは、合算されているだけではありません。合算されていることも、表からは見えません。

なお、沖縄県を訪れた方に限った活動の集計は、公表されている都道府県別集計表にはありませんでした(同表に活動の項目は一つもありません)。「沖縄なら、その他スポーツの多くは海だろう」と考えたくなりますが、それを確かめる数字が公表されていません。

⚠ 季節差(7〜9月期に「その他スポーツ」が上がる)からマリンスポーツ分を逆算することもできません。ゴルフ等を含んだ合算値のままです。

支出の費目にも、同じことが起きています

両方の調査には、旅行中の支出を費目ごとに聞く欄があります。そこにはこう並んでいます。

費目に名前があるか
スキー「スキー場リフト」という独立費目(両調査)。さらに国内調査には「レンタル料(スキー用品・キャンプ用品・自転車など)」
ゴルフ「スポーツ施設利用料(ゴルフ場・テニスコートなど)」
海のアクティビティ独立した費目はありません。「その他娯楽等サービス費(遊漁船・ガイド料・写真撮影代など)」の例示に一度出るだけです

金額も公表されています(2025年・訪日外国人・1人1回当たり)。

d7 スキー場リフト556円
d12 その他娯楽等サービス費1,333円

スキー場のリフト代は、556円と分かります。一方、1,333円のほうには海以外のものが多く含まれており、この額を海の消費とみなすことはできません。

ダイビングのボート代も、シュノーケリングのツアー代も、ガイド料も、「その他」に入ります。したがって、海のアクティビティの経済規模も、国の統計からは取り出せません。

外国人については、どこにも見つかりませんでした

沖縄観光コンベンションビューロー「おきなわ観光地域カルテ」/日本政府観光局(JNTO) 各1件

沖縄県の調査は日本人が対象でした。国の調査は合算されていました。では、ほかにないか——沖縄観光コンベンションビューローの「おきなわ観光地域カルテ」と、日本政府観光局(JNTO)の統計を調べました。

カルテでは、外国人のお客様を市町村単位まで見られます。石垣市で絞り込むこともできます。ただし、そこで分かるのは来訪の数・時期・どこから来たかまででした。何をしたかは、まだ含まれていません。

JNTOの公開統計にも、海のアクティビティの実際の参加率は見当たりませんでした。

ただし、ここは正確に申し上げます。JNTOは、ダイビングをゴルフやスキーと並ぶ重点的なアウトドアスポーツとして挙げています。つまり、海のアクティビティを誘客の対象として認識していないわけではありません。認識はされているが、公開されている統計から実際の参加者数を取り出せない、ということです。

いずれも、収録されている項目の範囲を述べたもので、数値・図表の転載は行っておりません。資料の不備を指摘する趣旨ではありません。
出典表記(本稿での掲載形):出典:OCVB「おきなわ観光地域カルテ」/日本政府観光局(JNTO)

しかし、民間の統計は、分けて数えていました

ここが、この資料を書くうえで最も認識を改めたところです。

公益財団法人日本生産性本部 余暇創研『レジャー白書2025』速報版詳細資料 引用 C-02-01・C-02-03

公益財団法人日本生産性本部の『レジャー白書』は、海のアクティビティを独立した種目として測っていました。2024年の実績です。

種目参加率一人当たり
年間費用
ゴルフ(コース)5.0%154.7千円
釣り5.6%52.0千円
スキー2.9%78.8千円
スキンダイビング、スキューバダイビング0.7%101.3千円
サーフィン、ウインドサーフィン0.4%158.8千円
ヨット、モーターボート0.4%147.0千円

海の三種目は、ゴルフやスキーと同じ粒度で並んでいます。別枠でも、「その他」でもありません。

そして、参加率だけを見て判断できないことも、この表は示しています。サーフィンの参加者一人当たりの年間費用は、ゴルフより高い。ダイビングは、スキーより高い。人数が少ないことと、経済的な意味が小さいことは、同じではありません。

上表は、貴本部の公表値をそのまま記載したものです。図表そのものの転載は行っておりません。合算・再計算・単位換算も行っておりません。種目名は貴本部の表記のままです。
出典表記(本稿での掲載形):(出典)日本生産性本部「レジャー白書」

公益財団法人日本交通公社『旅行年報2025』 引用 C-01-01

公益財団法人日本交通公社の『旅行年報2025』も、日本人の国内旅行における現地での活動として「海水浴・マリンスポーツ」を独立して測っています。2024年の実施率は——

全国 2.1% / 沖縄県 20.1%

沖縄は、全国のおよそ10倍です。

貴財団の公表値をそのまま記載したものです。図表の転載・比率の再計算は行っておりません。沖縄県の回答数435も、あわせて本文に明記しています(下記)。
出典表記(本稿での掲載形):(出典)公益財団法人日本交通公社『旅行年報2025』2025年

⚠ レジャー白書は全国15〜79歳の3,467人へのインターネット調査であり、沖縄を訪れた方や外国人の統計ではありません。旅行年報の沖縄県の回答数は435です。平均費用に人数を掛けて市場規模と呼ぶことはできません。

「無い」のではなく、「分けていない」

ここは正確に申し上げたいところです。

「海のアクティビティは測られていない」というのは、誤りです。

  • 沖縄県は、県外から来た日本人について測っています
  • 民間の余暇統計は、ダイビング・サーフィン・ヨットを独立した種目として測っています
  • 観光研究の年報も、「海水浴・マリンスポーツ」を独立して測っています
  • 国の観光統計は、外国人について測っています。ただしゴルフと合算されていて分けられません。日本人については、活動そのものを聞いていません
つまり、分けて数えることは、現に行われています。

では、何が足りないのか。この資料が確認できなかったのは、こうです。

どれだけの人が海に入ったかという需要側の数字を、その人たちを受け入れる事業者の数、売上、雇用、そして安全にかかる費用へ——同じ定義の上でつなぐ枠組み。

参加率はあります。事業者の分類もあります。しかし、それらが接続された形は、この資料が調べた範囲では見当たりませんでした。

そして——同じ「アクティビティ」でありながら、国の観光統計では、雪には枠があり、海にはありません。

⚠ なお、両調査の調査票に「安全」「事故」「けが」「保険」の語は一つもありませんでした。旅行中に何が起きたかを、国の観光統計は聞いていません。ただし、事故の把握は海上保安庁や警察の所管でもあり、観光統計が担うべきかどうかは別の議論です。

そして、「海に入る人」は一枚岩ではありません

沖縄県の調査には、活動をした方の属性まで分かるクロス集計があります。取り出してみました。

海水浴・
マリンレジャー
ダイビング
お一人7.3%25.7%
子ども連れのご家族31.7%8.4%
個人旅行73.9%82.8%
沖縄が初めて12.1%12.1%

海水浴・マリンレジャーは、三人に一人が子ども連れのご家族です。ダイビングは、四人に一人がお一人です。

同じ「海に入る人」でも、まったく違う姿が見えます。安全に関する情報を届けるにしても、届け方は同じではないはずです。

なお、どちらも沖縄が初めての方は12.1%で、残りはリピーターでした。地域別では、宮古圏域が海水浴・マリンレジャー50.1%・ダイビング6.1%、久米島が37.1%・13.7%です。

⚠ このクロス集計から事故の起こりやすさや、対策の効果を示すことはできません。また、この調査の対象は日本人のお客様です。

8

置けるものは、すでにある

この資料は、どこかの機関が仕事をしていない、と言うために作ったものではありません。

沖縄県は、海に入る人の割合を毎年測っています。それは県の成果です。国立公園では、利用者の安全と保全費用の負担について、すでに実証が始まっています。それも国の成果です。国の統計は、スキー場のリフト代を独立した費目として、毎回きちんと集計しています。

ここまで読んで見えてきたのは、「何も無い」ではありませんでした。
必要なものは、すでに別の場所にあります。

二つの型が、すでにあります

一つめ。国立公園には、利用者の安全と、保全費用の一部を利用者に負担していただく仕組みの実証があります。

サンゴ礁の保全にも、海のアクティビティの安全にも、同じ問いがあります。誰が費用を負担するのか。利用する人にどこまで求められるのか。その問いに、国はすでに陸で取り組み始めています。

二つめ。国の観光統計には、雪のための枠があります。

「スキー・スノーボード」という選択肢。「スキー場リフト」という費目。「スキー用品」というレンタル費目。これらは、雪のアクティビティが何人に、いくら使われているかを、毎年たしかめるための枠です。

海には、それがありません。

三つめ。そして、海を分けて数えている統計が、すでにあります。

前章で見たとおり、民間の余暇統計は、ダイビング・サーフィン・ヨットを、ゴルフやスキーと同じ粒度で独立した種目として測っています。観光研究の年報は「海水浴・マリンスポーツ」を独立して測り、沖縄と全国の差まで示しています。

分けて数えることが難しいから分けていない、のではありません。現に、分けて数えている統計があります。

新しい制度を作ってください、という話ではありません

国立公園にある型を、海にも。スキーにある統計の枠を、海にも。そして、民間統計がすでに分けている粒度を、国の統計にも。

どれも、新しい発明ではありません。すでに、どこかで作られ、運用しているものです。

AMPは、接続を担います

とはいえ、枠ができれば数字が埋まるわけではありません。

  • 参加している人の数は、が持っています
  • 事故の記録は、別の機関が持っています
  • 事業者の実態と現場の運用は、私たちのような業界団体が持っています

これらは、同じ定義の上に並べられたことがありません。

足りないのは、数字そのものではありませんでした。数字と数字のあいだでした。

AMPが担えるのは、データを独り占めすることではなく、それらを同じ土俵に載せ、定義の食い違いと、まだ測られていない部分を見えるようにすることだと考えています。

枠を作るのは、私たちの仕事ではありません。埋めるための材料を揃え、どこが空いているかを示すことは、できます。

9

まだ言えないこと

この資料が言えないことを、はっきり書いておきます。

調べていないか、確かめられなかったこと(12件)
  • 白書に記述がないことが、観光庁や国の認識の欠如を意味すること
  • 産業として扱われていないことが、安全の記述の不在を引き起こしたという因果
  • 外国人のお客様の海の活動に関する統計が、国内のどこにも存在しないこと(調べたのは国の白書・国の調査票と集計表・沖縄県の調査・OCVBカルテ・JNTOの5つ。宿泊旅行統計調査と観光入込客統計は未確認)
  • マリンレジャーの市場規模と事業者数(レジャー白書の速報版には無く、平均費用に人数を掛けて市場規模と呼ぶことはできません)
  • 属性のクロス集計から、事故の起こりやすさや対策の効果
  • 必要なデータを持っているのがAMPだけであること
  • 令和7年版以前と比べて、海の扱いが増えたのか減ったのか
  • 文字認識で0件となった語が、PDF上に絶対に存在しないこと
  • 沖縄県の参加率と入域客数を掛けた推計人数の、厳密な母集団の一致
  • OECDに掲載された各国の取組の効果や指標
  • 他の国に水辺の安全政策が無いこと
  • 国の調査票で、マリンスポーツが昔からゴルフと合算されていたのか、途中から合算されたのか

推測で埋めることはしません。

よくあるご質問

本文に記載した内容のうち、お問い合わせの多い点をまとめました。いずれも本文の該当箇所と同じ内容です。数え方の範囲(本文テキストの出現件数であり、図表内・写真内の文字は確認していないこと)も、あわせてお読みください。

観光白書に、水難事故やダイビングに関する記述はありますか。

令和8年版観光白書(概要版・第I部・第II部・第III部)を全頁文字認識にかけて数えた範囲では、「水難」「溺」「海難」「ライフセービング」「監視員」「遊泳」「海上保安」「水上安全」の8語と、「ダイビング」「シュノーケリング」「スキューバ」「マリンスポーツ」「事業者団体」「遊漁」の6語は確認できませんでした。令和6年版・令和7年版でも同じ結果です(3年分・12のPDF・計454頁)。数えたのは本文テキストの出現件数で、図表内・写真内の文字は確認していません。「旅行者の安全の確保等」の節で扱われているのは、貸切バス、旅客船、道路交通、宿泊施設の防火、感染症、外国人旅行者の急な病気やけがへの対応です。

観光白書のなかで、海はどのように登場しますか。

マリンレジャーは三つの文脈で登場します。体験の機会として(「海の駅」を活用したイベントやクルージング等)、管理の対象として(港湾・河川・漁港の三水域におけるプレジャーボートの適正な管理、放置艇対策)、情報発信として(ポータルサイト「海ココ」「C to Seaプロジェクト」による海事観光の発信)です。海に関わる安全としてまとまった記述があるのは旅客船で、2022年の知床遊覧船事故を受けた対策が扱われています。「サンゴ」は令和8年版で1件、令和6年版・令和7年版では確認できませんでした。

マリンレジャーの事業者は、統計の上でどのように分類されていますか。

日本標準産業分類(令和5年改定)に分類はありますが、粒度がそろっていません。ゴルフ場は細分類8043、遊漁船業は細分類8093として独立していますが、ダイビングサービス業は細分類8099「他に分類されない娯楽業」の事例として挙げられ、ダイビングスクールは細分類8246(教養・技能教授業)に置かれています。海の担い手は、数えられていないのではなく、取り出せない粒度で数えられています。

海のアクティビティは、統計で測られていないのですか。

「測られていない」というのは誤りです。沖縄県「令和6年度観光統計実態調査報告書」では、県外から訪れた方の「海水浴・マリンレジャー」の実施率が令和6年度計で31.3%、7〜9月期で57.1%(八重山圏域は年度計41.6%、7〜9月期66.2%)と、毎年測られています。民間の余暇統計や観光研究の年報も、海の種目を独立して数えています。一方、国の調査では、外国人については「その他スポーツ(ゴルフ等)」に合算されていて分けられず、日本人については活動そのものを聞いていません。この資料が調べた範囲で確認できなかったのは、海に入った方の数を、受け入れる事業者の数・売上・雇用、そして安全にかかる費用へつなぐ枠組みです。

この資料の出典と引用条件は、どのように確認されていますか。

掲載前の確認・許可を要する発行元には、あらかじめ引用箇所と原稿を提出し、ご確認をいただいたうえで掲載しています。図表そのものの転載は行わず、公表されている数値のみを当協会が組んだ表に記載し、合算・再計算・単位換算は行っていません。各資料の取得日と利用条件は末尾の出典に記載しています。本資料の内容は、出典として「一般社団法人マリンレジャー振興協会『海から見た観光』」を明記いただければ、ご自由に引用いただけます。

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出典 観光庁「令和7年度観光の状況 令和8年度観光施策」(令和8年版観光白書)概要版・第I部・第II部・第III部。2026年7月10日掲載。mlit.go.jp/kankocho/news02_00092.html(取得 2026年7月25日、再取得・再確認 2026年8月6日)※公共データ利用規約(PDL1.0)に基づき、出典の記載により利用しています。

OCVB「おきなわ観光地域カルテ」/日本政府観光局(JNTO)の調査・統計(取得 2026年8月6日)
日本生産性本部 余暇創研『レジャー白書2025』速報版詳細資料(同)
日本交通公社『旅行年報2025』(同)

観光庁「インバウンド消費動向調査」調査票(日本語)/「旅行・観光消費動向調査」調査票A・B/「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」2023年版(いずれも取得 2026年8月6日。PDL1.0)
総務省「日本標準産業分類」(令和5年7月改定・平成25年改定)e-Statより(取得 2026年8月6日)
沖縄県「令和6年度観光統計実態調査報告書」(取得 2026年8月6日)

OECD (2026), OECD Tourism Trends and Policies 2026, OECD Publishing, Paris. https://www.oecd.org/en/publications/oecd-tourism-trends-and-policies-2026_3fd3cd75-en.html(取得 2026年8月6日。クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際)
※本資料には、OECDの原文を当協会が日本語に訳した箇所(第5章の表)が含まれます。OECDによる翻訳ではありません。OECDの定めにより、次を表示します——In the event of any discrepancy between the original work and the translation, only the text of the original work should be considered valid.(原文と訳文に相違がある場合は、原文のみが有効とみなされます。)原文の要約にあたり、記載の一部を省略しています。OECDのロゴ・ビジュアルアイデンティティ・表紙画像は使用していません。(利用条件の確認日 2026年8月7日/oecd.org/en/about/terms-conditions.html

独立行政法人国際観光振興機構(日本政府観光局、JNTO)「訪日外客統計」 ※同統計のページに「引用の際は、出典元として『日本政府観光局(JNTO)』を明記いただければご利用いただけます。ご連絡は不要です。」と示されています(確認日 2026年8月7日)。

引用について 本資料に引用した箇所は、掲載前の確認・許可を要する発行元には、あらかじめ引用箇所と原稿をご提出し、ご確認をいただいたうえで掲載しています。図表そのものの転載は行わず、公表されている数値のみを当協会が組んだ表に記載しています。合算・再計算・単位換算は行っていません。

本資料の引用について 本資料の内容は、出典として「一般社団法人マリンレジャー振興協会『海から見た観光』」を明記いただければ、ご自由に引用いただけます。