石垣島のサンゴを40年後の未来へ

対立から対話へ。「Phase 0」が示した合意形成の設計図

エグゼクティブ・サマリー

石垣島のサンゴ礁は、40年以上にわたりアンカリング等による物理的損傷を受け続けてきた。
その背景には、環境保全と観光利用をめぐる関係者間の対立と不信が存在している。
AMPはこの問題に対し、いきなり結論や規制を提示するのではなく、
「合意形成以前の段階=Phase 0」 を設計するというアプローチを採った。
本記事は、石垣島で行われたPhase 0の実践を記録し、
持続可能な海域管理における対話と共創のプロセスを共有するものである。


1.40年間続いたサンゴ礁劣化という未解決問題

石垣島周辺のサンゴ礁は、世界的にも価値の高い自然資産である。
しかし現実には、以下の問題が長年にわたり繰り返されてきた。

  • 観光船・ダイビング船のアンカーによるサンゴ破壊
  • 利用ルールや保全インフラが十分に整備されないままの観光利用
  • 行政・事業者・地域の間で責任の所在が曖昧な状態

この問題はしばしば「環境か経済か」という二項対立で語られてきたが、
本質は誰も全体を設計してこなかった構造的課題にある。


2.なぜルールは機能してこなかったのか

これまでにも、サンゴ保全を目的とした自主ルールや注意喚起は存在していた。
しかし、それらは十分に機能してきたとは言い難い。

主な理由は以下の通りである。

  • 現場事業者が意思決定プロセスに十分関与していなかった
  • 「なぜ必要なのか」という背景が共有されないまま運用が求められた
  • ルールが管理のための仕組みではなく、対立の象徴として受け取られた

結果として、
守る側/守らされる側 という構図が固定化され、不信が蓄積した。

3.Phase 0とは何か ― 結論を出さないという選択

AMPが最初に行ったのは、
「係留ブイを設置するか否か」を議論することではなかった。

Phase 0 とは、

  • 賛成・反対を決めない
  • 具体的なルールを押し付けない
  • まず対話の場そのものを成立させる

ための段階である。

この場には、
ダイビング・マリンレジャー事業者、行政関係者、研究者、地域関係者が参加した。
重要だったのは、反対意見も含めて排除しない という姿勢である。


4.対立の正体は「無視されてきた経験」だった

対話を重ねる中で明らかになったのは、
反発の多くが「環境保全そのもの」への否定ではなかったという点である。

  • これまで説明されずに物事が決められてきた
  • 現場の実情が理解されていない
  • いつも最後に負担を背負わされてきた

こうした経験の積み重ねが、
「また同じことが起きるのではないか」という感情的な壁を生んでいた。

Phase 0では、
結論よりも「聞くこと」 に時間を割いた。


5.専門家の視点が共通言語をつくった

議論を前に進めたのは、専門家による視点の提示だった。

海洋環境の専門家は、
共有地の悲劇」という概念を用い、
管理されない共有資源が劣化していく構造を説明した。

またサンゴ礁研究者は、
係留ブイが「規制」ではなく、
国際的には標準的な保全インフラであることを示した。

6.共有された一つの認識

Phase 0の終盤、参加者の間で次の認識が共有された。

係留ブイの設置は目的ではない。
サンゴを守り、海の安全を確保するための手段である。

これは賛成・反対を超えた、
共通の土台となった。


7.Phase 0が示した合意形成の価値

石垣島のPhase 0は、まだ結論ではない。
しかし、次の点で大きな意味を持つ。

  • 対立を「失敗」ではなく「資源」として扱った
  • 合意形成を制度や技術ではなくプロセスとして設計した
  • 将来のルール作りに耐えうる信頼の基盤を築いた

よくある質問(Q&A)

Q1.「Phase 0」とは何ですか?

Phase 0とは、具体的な結論や施策を決める前に、関係者同士の対話と信頼関係を構築するための前段階です。
石垣島では、賛成・反対を決めることを目的とせず、まず「全ての声をテーブルに載せる」ことを重視しました。


Q2.Phase 0の目的は、係留ブイの設置を進めることですか?

いいえ。係留ブイの設置は目的ではなく、あくまで選択肢の一つとして扱われました。
Phase 0の本来の目的は、なぜ対策が必要とされているのか、その前提認識を関係者間で共有することにあります。


Q3.なぜ、これまでのサンゴ保全ルールはうまく機能しなかったのですか?

多くの場合、現場事業者が意思決定の過程に十分に関与できておらず、
「なぜそのルールが必要なのか」が共有されないまま導入されてきました。
その結果、不信感が生まれ、実効性が低下しました。


Q4.反対意見や批判的な声は排除されなかったのですか?

排除されていません。むしろPhase 0では、反対意見こそが重要な情報であると位置づけました。
異なる立場の声を可視化し、対話の中で扱うこと自体が、合意形成の土台となりました。


Q5.サンゴ礁保全と観光の持続可能性はどのように関係していますか?

健全なサンゴ礁は、沖縄の観光価値そのものを支える基盤です。
地域の関係者と共に設計された保全策は、環境保全と地域経済の両立につながります。


Q6.Phase 0の次には何が行われますか?

Phase 0で築かれた信頼関係を基に、Phase 1では
具体的なルール設計、運用体制、公平性の担保などが検討されていきます。

Executive Summary (English)

Ishigaki Island’s coral reefs are one of Okinawa’s most precious natural assets, yet they have endured over 40 years of unresolved degradation due to anchors damaging coral structures and increasing water-safety risks. Despite decades of harm, coral protection has largely been left to voluntary rules set by industry operators, resulting in continued damage and a lack of shared governance among stakeholders.

Recognizing this structural challenge, the Marine Leisure Promotion Association (AMP), under the Okinawa Sustainable Tourism Promotion initiative, embarked on a comprehensive effort to build consensus among diverse stakeholders. The focus of this work is not to rush to conclusions, but to first establish a shared conversation platform — what AMP calls “Phase 0.”

Phase 0 convened local dive operators, government bodies, scientific experts, and community representatives to move beyond conflict and towards collaborative dialogue. Early discussions revealed deep mistrust rooted in decades of decisions made without sufficient input from local operators. AMP’s approach was not to suppress dissent but to ensure all voices were heard at the table, transforming conflict into a foundation for mutual understanding.

Experts contributed key analytical perspectives. For example, environmental scientists highlighted the tragedy of unregulated common resources, urging that “shared seas” need structured management rather than open-access assumptions. Coral reef specialists emphasized that responsible tourism and infrastructure such as mooring buoys should be viewed not as restrictive measures but as international-standard practices that preserve reef ecosystems while enhancing Okinawa’s brand value.

By the end of Phase 0, participants reached a critical shared insight:

The installation of mooring buoys is not an end in itself, but a means to protect coral and ensure marine safety.

Lessons from similar efforts on Miyako Island helped frame a roadmap for Ishigaki that balances ecological preservation, community input, and tourism development. Although tensions remained, the shift from opposition to constructive dialogue represented a meaningful step forward.

AMP continues this work into Phase 1, focusing on constructing durable rules and mechanisms to ensure that Ishigaki’s coral reefs remain vibrant and resilient 40 years hence, contributing to sustainable tourism and ecological stewardship.

更新履歴・参考情報

  • 初稿公開:2026年2月
  • 本記事は、現地対話、専門家知見、既存研究の一般的枠組みに基づき構成している。

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