沖縄マリンレジャーの未来と、AMPが構築する「安全の可視化」システム

光と影の現状:成長戦略の裏で進行する「構造的限界」

我が国は「2030年インバウンド消費額15兆円」という野心的な国家目標を掲げ、とりわけ沖縄県の海洋資源は、高付加価値な体験型観光の核心(コア)として位置づけられている。しかし、その輝かしい成長戦略の裏で、極めて憂慮すべき事態が進行している。沖縄県内における水難事故件数は128件(過去最高水準)に達し、尊い命が失われる悲劇が後を絶たない。

なぜ、これほどの事故を防ぐことができないのか。我々AMP(Alien Marine Project)は、客観的データと現場の深層調査に基づき、一つの結論に達した。それは、事故の根本原因が単なる「現場の怠慢」や「個人のスキル不足」にあるのではなく、業界全体を覆う**「構造的欠陥(アーキテクチャの不在)」**にあるという事実である。

努力が報われない「負のスパイラル」と4つの空白

現在、マリンレジャー産業が直面している最大の危機は、安全を監視・保証する機能がどのステークホルダー(行政、団体、事業者、消費者)にも存在していないという事実である。具体的には、以下の4つの欠陥が複雑に絡み合い、「努力が報われない負のスパイラル」を生み出している。

行政機関の限界:専門性の断絶と法規制の空白

行政による監視網は、制度的・構造的に機能不全に陥っている。行政機関特有の定期的な人事異動により、海域利用やレジャー安全に関する高度な専門知識を持った人材が育ちにくい。さらに現行法上、ダイビング「以外」のマリンレジャーにおいては、指導団体が認めるインストラクター資格を取得しなくても、無資格かつ無保険で合法的に営業が可能という致命的な抜け穴が存在している。

指導団体の限界:営利主義と品質管理の不在

業界の安全基準を牽引すべきダイビング指導団体も、本質的には教材開発と販売を目的とした「営利企業」である。自社教材の品質管理には関与するものの、現場の安全に対する品質管理の機能はなく、産業全体の健全化への意識も低い。また、教材を販売するインストラクターに対し、資格維持の条件として安全知識や救命技術の定期的なアップデート(更新)を義務付けていない。

事業者のモラルハザード:コストカットによる安全軽視

マリンレジャーにおける安全対策は現行法上「努力義務」に留まっており、営業上の必須条件とされていない。そのため、激しい価格競争の中でコスト削減を最優先とし、緊急事態へのトレーニングを省略したり、AEDや医療用酸素などの救命器具を用意しない事業者が多数存在する。さらには、低賃金で雇われた人材に対して十分な危機管理や接客スキルの教育が行われず、サービス品質の著しい低下を招いている。

マーケット(消費者)の限界:情報の非対称性

消費者は、「水中世界」という特殊な環境に慣れていないため、マリンレジャー商品を選ぶ際の判断基準が極めて低い。安全で快適なサービスを提供するために事業者が負担すべき「見えないコスト」を理解しておらず、結果として「価格(安さ)」以外に選択の基準を持たない。

これら4つの欠陥により、最大の悲劇が引き起こされる。それは、「多額のコストをかけて安全備品を揃え、研修を行う優良事業者」も、「コストを削って安売りする無責任な事業者」も、Webサイト上では全く同じに見えてしまうことだ。消費者が価格のみで判断する結果、「真面目に安全対策をするほど価格競争に負ける」という負のスパイラルが産業全体を衰退させている。

「見えない安全」から「選べる安全(可視化)」へ

この致命的な負のスパイラルを断ち切るための唯一の解決策は、個人の「意識」や「道徳」に依存することではない。消費者が「安全な事業者」を明確なエビデンスに基づいて選び、その価値に正当な対価(プレミアム)を支払える**「環境(仕組み)」**を新たに社会実装することである。

AMPは、技術と制度を統合した**「安全基準の遵守を可視化するシステム」**を提供する。これにより、安全対策が単なる「コスト」から、選ばれるための「競争優位性」へとパラダイムシフトを起こす。

AMPの3つのアプローチ(システムの実体)

行政の法執行能力を補完し、市場に透明性をもたらすため、AMPは以下の3つの柱で構成される実効的システムを展開する。

公正な基準と研修(エビデンスの構築)

特定の営利団体に依存しない客観的な基準を策定する。名桜大学をはじめとする学術機関との連携により、現場のベテランが持つ「体験知」を、誰もが納得し監査可能な「形式知(学術的データ)」へ変換する。これにより、客観的な安全基準の策定と、標準化された質の高い研修プログラムを提供を目指す。

データ基盤による人材の質的証明(安全基準認定データベースの構築)

基準を策定するだけでなく、その基準を満たす適正な教育が「現場の誰に」「いつ」提供されたかを厳密に管理し、証明する仕組みが不可欠である。

AMPは、日本財団の支援を受け構築した講習会を修了した事業者およびスタッフの「受講履歴」や「スキル認定情報」を一元的に蓄積・管理するデータベース・インフラを構築している。これまで現場のブラックボックスに隠れ、属人的な「自己申告」に頼らざるを得なかった人材の安全管理能力を、システム上の改ざん不可能な「客観的データ」としてトラッキングする。この蓄積されたデータ群こそが、事業者がコンプライアンスを遵守し、高度な安全体制を維持していることの強力なエビデンス(事前証明)となる。

遵守状況の可視化(第三者認証と発信)

名桜大学との連携基準を満たし、SEAKERシステムを導入・運用している事業者を、AMPが「第三者機関」として客観的に証明・可視化を目指す。この認証マークがデジタル上で明示されることで、観光客は迷わず安全な事業者を選ぶことができ、優良事業者が市場で正当に評価されるエコシステムが完成する。

安全という贅沢(Safety as Luxury)

沖縄の海が、世界基準で「最も安全に楽しめる海」になること。 「安全」は決して削るべきコストではない。それは、最高の顧客体験を提供するための土台であり、これからの時代の観光産業において最も価値の高い「贅沢(Luxury)」である。

AMPが構築する安全の可視化システムは、過度な価格競争による産業の疲弊を止め、地域経済を持続可能な観光モデルへと転換する。命を守るインフラ構築への参加・協賛を、強く呼びかける。