15兆円市場を勝ち抜くための緊急提言

PROLOGUE:岐路に立つ沖縄の海

15兆円の光か、136件の影か。沖縄の海は今、限界点にある。

世界は今、海洋観光(マリンツーリズム)を「単なる遊び」ではなく、「高付加価値な自然資本」として再定義しています。ハワイ、モルディブ、そしてパラオ。これらの競合エリアは、「徹底された安全管理」と「厳格な環境保全」をセットで提供することで、富裕層を惹きつけ、地域の豊かさを守り抜いています。

一方、沖縄はどうでしょうか。 政府目標である「2030年インバウンド消費15兆円」。この光り輝く数字の足元で、2025年の沖縄県内水難事故件数は「136件」という過去最高水準に達しました。

美しい海、豊かなサンゴ、琉球王朝から続く歴史と文化。沖縄が持つ「ポテンシャル」は、間違いなく世界トップクラスです。しかし、それを支える「インフラ(安全・制度)」は、発展途上のまま放置されています。

このまま「安売り」と「事故」を放置すれば、沖縄のブランドは失墜し、取り返しのつかない経済的損失を招くでしょう。逆に今、官民が連携して「安全と質のマスタープラン」を実行すれば、沖縄はハワイを超える「世界一のマリンリゾート」へと進化できます。

一般社団法人マリンレジャー振興協会(AMP)は、現場の最前線で戦う事業者、学識経験者、そして危機管理の専門家と共に、沖縄の海を再生させるための具体的なロードマップ「Blue Guardian Master Plan」をここに提言します。

これは、一業界団体の要望書ではありません。沖縄県経済の持続可能な発展を守るための、「防衛戦略書」です。


THE CRISIS:構造的欠陥の正体

なぜ、事故は減らないのか? なぜ、単価は上がらないのか?

行政の皆様が目にする統計データには表れない、現場の「リアルな危機」が存在します。沖縄のマリンレジャー産業は今、「負のスパイラル」に陥っています。

1. 参入障壁の低さが招く「過当競争」と「質の低下」

沖縄県内には数千のマリン事業者が存在しますが、その多くは小規模であり、開業にあたっての厳格な「質の審査」が存在しません。

  • 現状: 届出さえ出せば誰でも開業できる「参入障壁の低さ」。
  • 結果: 事業者の乱立による過激な価格競争。「1円でも安く」という消耗戦。
  • 代償: コストカットのしわ寄せは、全て「安全」と「人件費(ガイドの質)」へ向かいます。

2. 時限爆弾化する「危険なタンク」問題

ダイビングの命綱である「エアタンク(スクーバシリンダー)」。この基本的な機材において、沖縄は先進国にあるまじきリスクを抱えています。

  • 流通の歪み: 日本国内のタンク流通価格は海外の約2倍。高コスト構造が、事業者の設備投資を阻害しています。
  • 老朽化の放置: 高圧ガス保安協会の推奨使用期限(10年)を超え、15年、20年と使い古されたタンクが市場に溢れています。
  • リスク: 破裂事故のリスクはもちろん、バルブの劣化によるエア供給停止など、いつ死亡事故が起きてもおかしくない「時限爆弾」を背負って観光客が泳いでいるのが現状です。

3. 離島における「命の格差」:医療用酸素の物流断絶

水難事故、特に減圧症や溺水において、初期の「純酸素投与」は生死を分ける、あるいは後遺症の有無を決定づける唯一の手段です。

  • 物流の壁: テロ対策等を理由とした輸送規制により、離島への医療用酸素ボンベの輸送が困難になっています。
  • 現場の悲鳴: 「酸素さえあれば助かったかもしれない」。そんな悔恨を現場に強いてはなりません。本島と離島で、救える命に格差が生まれている現状は、早急な是正が必要です。

4. サンゴ礁という「共有地の悲劇」

「サンゴを守ろう」というスローガンはありますが、実効性のある「仕組み」が不足しています。

  • アンカーによる破壊: 係留ブイが不足しているため、船を止めるためにアンカー(錨)をサンゴに直接打ち込まざるを得ない状況が放置されています。
  • フリーライド(ただ乗り): サンゴという共有財産を無料で消費し、傷つけ、再生コストを負担しない。経済学で言う「共有地の悲劇」が沖縄の海で進行しています。

THE STRATEGY:AMPマスタープラン

「Blue Guardian Initiative」:沖縄全域安全網構想

我々AMPは、批判をするためにここにいるのではありません。解決策(ソリューション)を持っています。 「規制」ではなく「質の認証」によって業界を再編し、安全を「高付加価値な商品」へと転換する戦略。それが「Blue Guardian Initiative」です。

Data-Driven Risk Management:データに基づくリスク管理と予知

「起きてからの対処」から「起きる前の回避」へ。 AMPは、これまで個人の記憶や紙媒体に散逸していた情報をデジタル化し、事故を未然に防ぐための「集合知」を構築します。

  • 「安全意識」のデータベース化(講習会受講履歴の管理):
    • 現在、AMPは安全講習会に参加した事業者やガイドのデータベースを保有・管理しています。
    • これを拡張し、ガイド個人のスキルや安全学習履歴を可視化することで、「学び続けるガイド」が市場で正当に評価される仕組みを作ります。(無資格・無学習の業者との明確な差別化)
  • 次世代型「事故・海況相関データベース」の構築準備:
    • 「なぜ、その事故は起きたのか?」——従来は「不注意」で片付けられがちだった事故原因を、当時の「気象・海況データ(風速、波高、潮汐)」と突き合わせて詳細に記録・蓄積する準備を進めています。
    • 【名桜大学との連携構想】: 蓄積された「事故×海況」のビッグデータを、名桜大学(遠矢研究室)等の学術機関と連携して分析することで、「この風向きで、この波の高さなら、このポイントで事故率が跳ね上がる」といった**科学的根拠に基づいた出航判断基準(形式知)を導き出します。
    • このデータベースは、将来的に沖縄の海から「想定外の事故」をなくすための、極めて重要な知的財産となります。

Academic Standards:産学連携による基準の「形式知化」

「あうんの呼吸」を「万人のルール」へ。 安全基準が曖昧なままでは、事故は防げません。AMPはアカデミアの知見を現場に実装します。

  • 名桜大学(遠矢英憲研究室)との共同研究:
    • 現在、AMPは名桜大学・遠矢上級准教授と連携し、ベテランガイドが持つ高度な安全管理スキル(暗黙知)を、誰もが理解・実践できるマニュアルや数値基準(形式知)へと変換する研究を進めています。
    • 役割の明確化: 大学は「中立的・学術的な視点からの基準策定・監修」を担い、AMPはその基準を元に「実効性のある事業者指導・認証制度」を運用します。
    • この産学連携により、世界中の富裕層が納得する「ロジカルな安全基準」を沖縄に確立します。

SDO Certification:選ばれる」ための認証制度

「安さ」ではなく「安全」で選ばれる市場へ。 真面目に安全対策を行う事業者が、経済的に報われる仕組みを作ります。

  • SDO (Safety Diving in Okinawa) 認証の普及:
    • 「安全なタンクの使用」「医療用酸素の常備」「保険加入」「AED設置」「定期的なレスキュー訓練」。これらをクリアした事業者のみに与えられる認証マークです。
    • 行政・OCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)と連携し、**「SDO認証店=沖縄県が推奨する優良事業者」**として対外的にプロモーションを行います。
    • これにより、悪質な安売り業者を自然淘汰させ、健全な市場競争を取り戻します。

Regenerative Tourism:環境再生の経済化

「消費する観光」から「再生する観光」へ。 環境保全をコストではなく、収益を生むコンテンツに変えます。

  • 係留ブイ設置プロジェクト(石垣島モデルの全県展開):
    • アンカーを使わず船を係留できるブイを整備し、サンゴ破壊を物理的に阻止します。
    • 協力金制度の確立: 係留ブイの維持管理費を、観光客からの「環境協力金」や「高付加価値ツアー代金」の一部で賄う循環モデルを構築します。
    • 富裕層は「環境貢献」に対して財布の紐を緩めます。「あなたのダイビングが、沖縄のサンゴを増やす」というストーリーこそが、最高の商品となるのです。

ECONOMICS:経済効果とROI

安全投資は、最も効率の良い経済成長戦略である

議会・行政の皆様へ。AMPの提案する安全対策への予算措置や制度支援は、単なる「補助金」ではありません。将来の税収増を約束する**「投資」**です。

1. 富裕層インバウンドの獲得要件

欧米豪の富裕層旅行者(High Net Worth Individuals)が旅行先を選ぶ際の条件は、「絶景」だけではありません。「Advanced Safety(先進的な安全)」と「Sustainability(持続可能性)」が必須条件(ミニマム・リクワイアメント)です。

  • 現状の「酸素なし・古いタンク・事故多発」の沖縄は、彼らの選択肢から外されています。
  • マスタープランを実行し「世界一安全なサンクチュアリ」を宣言することで、現在ハワイに流れている層を沖縄へ呼び込むことが可能になります。

2. リスク回避による損失防止

たった一度の重大事故が、観光地全体のブランドを数年間にわたって毀損します。

  • 2000年代の知床遊覧船事故のような悲劇が沖縄で起きれば、その経済損失は数百億円規模に上ると試算されます。
  • AMPの安全インフラ(SEAKER、タンク管理、認証制度)は、この巨大な「負のコスト」を未然に防ぐ防波堤です。

3. 「点から線へ」の滞在型消費

安全が担保されることで、単発のマリンアクティビティ(点)は、長期滞在型のストーリー(線)へと進化します。

  • 冬のホエールウォッチング、歴史探訪、食文化、そして夏のダイビング。
  • 「安全な海」を基点に、地域の宿泊・飲食・交通へと経済効果が波及します。

ACTION:今、政治が決断すべきこと

AMPからの要請・パートナーシップの提案

現場はすでに動いています。しかし、民間だけの努力には限界があります。 「世界一の海」を実現するために、議会・行政の皆様に以下の3点を提言・要請いたします。

1. 条例改正を含めた「ルールの厳格化」

「努力義務」では人の命は守れません。水上安全条例を見直し、ガイドの資格要件、安全機材(酸素・タンク)の基準を明確化し、SDO認証のような第三者認証を事実上の「営業許可要件」とする制度設計に着手してください。

2. 「安全インフラ」への戦略的予算配分

観光プロモーション予算の一部を、「受入環境整備(安全インフラ)」へシフトしてください。

  • GPS見守りシステムの通信ランニングコスト支援。
  • 医療用酸素の離島輸送ネットワーク構築への助成。
  • 係留ブイ設置・維持管理への初期投資。 これらは、道路や橋を作るのと同様の「公共事業」です。

3. AMPとの「包括連携協定」の締結

現場の実情を知るAMPを、県の海洋政策のパートナーとして活用してください。 我々は、行政の意図を現場語に翻訳して伝え、現場の課題を政策言語に翻訳して届ける「ハブ」となります。 また、大学(アカデミア)との連携に際しても、AMPが民間実務の受け皿となることで、スムーズな社会実装を実現します。


未来への約束

2030年。 沖縄の海は、世界中のダイバーや海を愛する人々が憧れる「聖地」になっているはずです。

そこでは、

  • 古いタンクは一掃され、全てのボートに酸素とAEDがある。
  • GPSで見守られた子供たちが、安心してシュノーケリングを楽しんでいる。
  • 係留ブイによって守られたサンゴ礁が、以前よりも色鮮やかに輝いている。
  • そして、誇り高いプロフェッショナルなガイドたちが、適正な対価を得て働いている。

「Human Life First. —— 人命を最優先に。」

この当たり前の基準を世界最高水準で満たすこと。 それこそが、沖縄が世界に勝つための唯一にして最強の戦略です。

今すぐ、マスタープランを共に動かしましょう。 沖縄の海には、それだけの価値があるのですから。


注記: 「本構想におけるデジタルプラットフォーム等の開発・運営はAMPまたは提携民間企業が行うものであり、大学機関が直接の事業主体となるものではありません。」