
観光地としてのポテンシャルの高さは世界一
沖縄のマリンレジャー産業は、その美しい自然環境と観光資源により、世界的な観光地として高いポテンシャルを持っています。近年の円安傾向により、訪日外国人観光客(インバウンド)の増加が見込まれ、海外からの旅行者にとって日本は自国通貨と比較してお得感のある目的地となっています。また、円高の影響で海外旅行を控える日本人観光客が、国内旅行先として沖縄を選択する傾向も見られます。

沖縄マリンレジャー産業の現状
沖縄県内には3,400を超えるマリンレジャー事業者が存在し、シュノーケリングやダイビング、マリンスポーツなど、多彩なアクティビティを提供しています。
しかし、事業者間の競争激化に伴い、価格のみで選ぶ消費者が増加しています。その結果、安全対策やサービスの質を犠牲にした価格競争に陥る事業者も出てきています。
ダイビング
沖縄のダイビング業界は、参入障壁が低いため多くの2,000以上の業者が存在し、価格競争が激化しています。その結果、適正価格を逸脱した価格競争が起こり、負のスパイラルへと繋がっています。
価格競争に巻き込まれた一部の事業者では、安全対策への投資が後回しになり、事故やトラブルが多発しています。例えば、整備不足の器材を使用したり、経験の浅いインストラクターを起用したりするケースです。
シュノーケリングツアー
沖縄では、美しい海の中をシュノーケリングで観察できるツアーが人気です。しかし、この分野でも事業者が多数存在し、同じようなコースや機材を提供するため、価格競争から「安全性の低下」「サービスの低下」が起こっています。
ジェットスキーレンタル
ジェットスキーのレンタルサービスも、多数の事業者が競合しているため、価格競争が激しくなっています。消費者が価格だけで観光商品を購入し、悪質事業者との消費者トラブルが続出しています。
特に半グレ集団の参入が目立つアクティビティーです。
パラセーリング
沖縄の海上で行われるパラセーリングも同様に、多数の事業者が競合しています。同じようなコースや時間帯での提供が多いため、価格競争から「安全性の低下」「サービスの低下」が起こっています。マリンレジャーの安全対策は事業者判断となっているため、提供されるサービスは事業者によって異なります。
付加価値商品の開発の必要性
乱立する事業者間の価格競争の弊害
- 価格だけでの競争は、単なる「安さ」だけに注目し、サービスの質や独自性が軽視されるため、顧客にとって魅力的な体験が提供できなくなる
- 結果として、業界全体のブランドイメージや信頼性が低下する恐れがある
付加価値商品の具体的な開発事例と方向性
地元漁協との連携で実現する新たな観光体験
- 地元の漁協と協力して、観光客向けの「観光漁業」モデルを構築する
- 観光客が実際に漁船に乗り、地元漁師の指導の下で漁業体験を楽しむツアーを企画
- 漁獲された新鮮な魚介類を使った船上クッキング体験や、現地のレストランでの特別メニュー提供など、漁業と食文化の融合を図る...など
エコ・サステナブルな観光商品の開発
- 環境保全活動と連動したエコツーリズムやサンゴ礁保全活動に参加する体験型ツアーの企画
デジタル技術の活用
- オンライン予約システムやデジタルマーケティングを導入し、顧客の利便性向上と広範囲なプロモーションを実現する
付加価値商品の開発の経済効果
顧客満足度の向上とリピーター増加
高付加価値商品は顧客にとって魅力的な体験を提供し、満足度の向上とともにリピーターが増加することで、収益の安定化とマーケティングコストの削減に寄与する
新規顧客層の獲得
付加価値商品は、従来の価格競争ではアピールできなかった新たな顧客層(特に海外からの富裕層や、質を重視する国内顧客)に対して強い魅力となる
産業全体の競争力強化
独自性を持った商品・サービスの提供により、業界全体のブランド価値が向上し、競争優位性が確保される
地域経済への波及効果
マリンレジャー産業の発展により、ホテル、飲食店、交通機関など関連産業にも好影響が生まれ、地域全体の経済活性化に貢献する
以上のように、沖縄マリンレジャー産業における付加価値商品の開発は、「観光客の滞在時間が延び」「観光客の消費額が増える」「インバウンドの経済効果」など様々な経済効果をもたらすことが期待される

サンゴ礁保全を目的とした係留ブイ設置
サンゴ礁保全の背景
- 沖縄は世界有数のサンゴ礁を有する地域であるが、地球温暖化による海水温上昇、オニヒトデの食害などによりサンゴ礁が危機にさらされている
- 環境意識の高い富裕層観光客は、自然環境や生態系の保全に強い関心を持っており、持続可能な観光を求める傾向がある
係留ブイの設置とその条件
- サンゴ礁保全を目的として、係留ブイの設置を必須とし、使用条件にSDO認証(サンゴ礁保全に関する第三者認証)や保全活動への参加を義務付ける
- 海域を商業利用する場合、係留ブイ以外での営業活動を禁止する条例の制定が検討され、これにより悪質な事業者の営業継続を抑制する
安全対策および運用上の課題
- 欧米豪のダイバーからは、船の無人化や船長がガイドを兼ねる運用方法に対して、安全性の低下が指摘される事例があり、改善が求められている
- また、人件費削減のために安全基準が犠牲にされるケースは、海外ダイバーから非常識と評価されるため、徹底した安全対策と統一基準の整備が急務である
SDO(Safety Diving in Okinawa)認証の活用
係留ブイの使用条件に SDO認証(セイグティ・ダイビング・オキナワ認証) の取得を義務付けることで、環境保全に積極的に取り組む事業者を優遇し、悪質な事業者の排除につながります。

海外における事例
オーストラリア・グレートバリアリーフ
グレートバリアリーフでは、アンカリングによるサンゴ礁破壊を防ぐため、指定エリアには アンカリング禁止 の規則が設けられ、係留ブイの利用が義務付けられています。違反者には罰金が科される制度が整備されています。
ハワイ・モロカイ島
ハワイでは、海洋保護区内でのアンカリングを厳しく制限し、環境保護に配慮した観光を推進しています。さらに、 海洋資源保護法 に基づき、サンゴ礁を損傷する可能性のある化学物質(特に特定の日焼け止め成分)の使用を禁止する規制も導入されています。
今後の展開と業界発展への期待
行政と業界団体の連携強化
- 今後、行政機関と業界団体が連携して、新しいアイデアや技術を活用した高付加価値観光商品の開発に注力する必要がある
- 例:沖縄県の補助金や中小企業支援プロジェクトを活用し、デジタル技術や地元資源を取り入れた取り組みが進行中
技術革新とデジタル化の推進
- オンライン予約システムやデジタルマーケティングの導入により、顧客利便性の向上と事業者間の競争力強化が期待される
- インバウンドの経済効果をさらに高め、観光客の滞在時間延長や消費額の増加につなげる施策が求められる
地域経済への波及効果
- 付加価値商品や安全対策の強化によって、関連産業(宿泊施設、飲食店、交通機関など)への需要が増加し、地域全体の経済活性化に大きく貢献する
- 長期的には、沖縄マリンレジャー産業の発展が、地域ブランドの向上と観光地としての国際的な地位確立につながる
まとめ
沖縄は、自然美と豊かな文化資源に支えられた観光立県として、円安や海外からの観光需要の増加により大きな成長ポテンシャルを持っています。しかし、参入障壁の低さから事業者が乱立し、価格競争により安全性やサービス品質が低下する現状があります。
これを打開するためには、付加価値商品の開発(地元資源とのコラボ、エコツーリズム、デジタル化など)や、統一的な安全基準・環境保全対策の導入が不可欠です。行政、業界団体、企業が連携してこれらの取り組みを推進することで、インバウンドによる経済効果、産業全体の競争力向上、そして地域経済の活性化が実現されることが期待されます。